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MEDICAL

【医学講座コーナー】無痛分娩

(産婦人科 教授 市塚清健)

経産婦さんを対象に無痛分娩を開始しました

昭和大学横浜市北部病院 産婦人科では、麻酔科とともにこの度無痛分娩を開始することになりました。今回は、無痛分娩を開始するに至った経緯と無痛分娩について述べさせていただきます。

無痛分娩とは

無痛分娩とは、麻酔により陣痛による痛みを取り除き、または和らげながら出産する方法の総称です。欧米では「痛みは取るもの、無いに越したことはない」との合理的な考え方や、分娩入院期間が1-2日と短いことなどを理由に、古くから無痛分娩が行われており、その頻度は70-80%と無痛分娩が主流であります。

一方、我が国では「忍耐を美学とする国民性」「お腹を痛めて産んでこそ」などの考え方があり、欧米との考え方の違いや、そもそも麻酔手技を身に付けた産婦人科医が少ない、無痛分娩に対応する麻酔科医不足などの理由から、無痛分娩はまだまだ普及しているとは言えず、最近の統計では微増傾向はあるものの帝王切開を除く分娩全体のおよそ8%程度にとどまっています。(無痛分娩対応産婦人科施設の割合はおよそ30%)

導入の経緯

しかしながら、今後は考え方の欧米化や、さらには少子高齢化に伴い無痛分娩の需要が増加することが予想されています。実際、当院におきましても無痛分娩を希望される妊婦さんが増えておりますが、現状では対応しておらず要望に応えられておりませんでした。そのような背景から地域の妊婦の要望に応えるべく当院でも2022年11月から開始しました。昭和大学関連では昭和大学病院、昭和大学江東豊洲病院に続いて3施設目になります。

無痛分娩の種類

無痛分娩には、陣痛が始まり、分娩が始まったことにより入院してから麻酔を行ういわゆる”オンデマンド”型と、分娩が始まる前に入院し、自然に陣痛が来る前に陣痛を促しながら、麻酔を行う”計画無痛分娩型”がありますが、当院では”計画無痛分娩型”を導入する予定です。

麻酔は麻酔科医師が担当し、分娩終了まで麻酔科医師が痛みのコントロールを行います。麻酔の方法は、脊椎の中の硬膜外腔というスペースに細い管を挿入し、そこから局所麻酔薬を注入する方法(硬膜外麻酔)やこれに加え、硬膜外腔より深い位置にある、くも膜下腔という、脊髄液が入っている場所へ、麻酔を注入する方法の併用などがあります。

メリットとデメリット

無痛分娩のメリットは何と言っても「痛くないこと」ですが、その他にも会陰を切開した際の傷や産道の傷を縫っている時の痛みが無い、緊急帝王切開を行う必要のある場合に新たに麻酔をかける必要がない、産後の疲れが少ないなどが挙げられます。

一方、デメリットとしては麻酔そのものの合併症、陣痛を感じないため「いきむ」タイミングがわからない、分娩が長引き吸引、鉗子分娩などの器械を用いた分娩の頻度が増加する、産道に血のかたまりなどができた場合も痛みの訴えがないため発見が遅れるなど様々なものが挙げられます。このような合併症の発生を防ぐため無痛分娩には安全管理が一層求められ、産婦人科医、麻酔科医、小児科医、助産師、看護スタッフなどのチームが一丸となって安全な無痛分娩を提供したいと考えております。

尚、無痛分娩を行う際には実施可能な条件や人数制限もございますので、ご希望される場合は外来担当医までご相談下さい。基本的には妊娠後期から受付いたします。